一人暮らしをやめた
28歳になってしまった。
当日
妹二人からそれぞれ数行に渡る「おめでとう」ラインがきた。父は家族の全体ラインで「おめでとう♪」と投下し、祖母からは電話がかかってきた。
この一連で自動的に、母から音沙汰ないなあとつい頭をよぎってしまったのだけど、それは「らしい」と思ってそれで完結させていたが、次の日にラインが来たので逆に驚いた。
なんだよ珍しいとおもって開けてみると
「誕生日おめでとう! ついに29歳か~」
ときていた。
惜しい……。
数字が覚えられないのは母譲りだ。
2018年。平成30年。
私が生まれたのは平成2年だ。
平成が30年になってしまった。その元号ももうすぐ終わる。
今年、彼氏と同棲することになりました。
なんと浮かれた文字列だろうか。非常に吐き気がする。
しかし、事実には変わりない。
彼氏と同棲することになりました。
こんな恥ずかしいことネタにするよりないじゃないか、と開き直った結果が上記の文言である。
オキタミツヲという男と暮らしている。
一ヵ月がたった。
思い出す。
私が初めて男と同棲というものを経験したのは大学を卒業してからすぐ、就職に失敗してフリーターをしていた時だと思う。
親に嫌気がさしちょうど家出したい年ごろで、バイトが一緒だった男の家に布団をかついでワンルームの部屋に転がり込んだのだった。
彼は同い年だったが、明大の4年生だった。一浪していたのだという。就職先も決まり、それまでの繋ぎとして短期バイトをしていて、そのバイト先で私と出会ってしまった。まさか彼も軽い気持ちで声をかけた女がそのまま家に転がり込んでくるなど思ってもみなかったと思う。
ひどく真面目な男で、私を社会的に自立させたがった。
「バイトなぞしていないで、正社員になるべき」
勤める会社が決まっている男だから、そう言うのはもっともだ。
(ここで私は「映像制作会社の正社員」に応募し人生の采配を間違える。彼も「なんか違う」って顔をしていた)
なぜか私のことを他の女の名前で呼びたがる男だった。
その生活は三ヵ月ほどで破綻した。
彼のスーツ姿をみることなく幕は降りた。
私は持ち込んだ自分の布団を背中にしょって甲州街道を歩き、実家に出戻ることとなる。
無言で布団を担ぎ帰宅した私を、また無言で見過ごしてくれた家族たちには今となっては感謝している。
実家から出たことのない人間が、人とともに住むというのは、自身が思っているよりも無謀なことなのである。
そろそろ昔の話をするのは具合が悪いのでここらでやめておく。
彼は私至上なかなかの濃厚な性癖を持つ人間だったのではあるが、もう少しとっておこう。
それから私は何度かの一人暮らしを経験して、今に至る。
あの頃に比べて、料理も洗濯も掃除も皿洗いも出来るようになった。
同棲生活は二ヵ月目に突入する。
お恥ずかしい話だが、私は今「のんちゃん」と呼ばれている。
単純にのすりの「の」が生かされてこの呼び名なわけだが。
私は未だに本当の名で呼ばれていない。
これはこれで、まあいいか、と思っている。
*1:オキタミツヲ:劇団ザイロコーパ主宰。同居人。こんなのも書いてます。
私とオキタの対談コラム
ダーリンは演劇人 彼女はもっと演劇人 第二巻 【オキタミツヲ】 | しばいのまち
*2:この恥ずかしいタイトルどうにかならんかと思っている